
『ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?』
鳥かご、というから鳥かごだと思うけれど、こんなに小さい鳥かごは見たことがない。小さな小鳥、この中である程度自由に飛ぶことのできる小鳥を想起すると、小さい故にこの柵から抜け出てしまうのではないか。
そんな小さい小鳥がこんなにどでかいイカの甲をどう啄むというのか。
それに152個の角砂糖型大理石が無意味に詰まっている光景は唖然とするしかない。小鳥というのは数十グラムの軽さであるのに対し、大理石は重い。
体温計というの動物に使用するものであるけれど、小鳥の体温を測るなど聞いたことがないし、まして大理石などは人が察知すべき温度であって計測の日常化はない。
通常の人が抱いている観念/常識をすべて覆す意外性、というか無為な反逆の凝縮を提示し、作品と名付ける。不遜とも思える行為である。
しかし、それは反骨の精神とは異質のものである。真っ向から《無/非存在》を見えるような形に置換した結果としての従順ではないか。
『ローズ・セラヴィよ』と自身に問いかけている大いなる自問。『なぜくしゃみをしない?』という制御不能な器官の働きは、「自然に逆らうことなかれ」という潜在意識への問いであり、真偽の間を彷徨する否定の上の肯定に揺さぶりをかけている疑問符なのだと思う。
(写真は『DUCHAMP』(ジャニス・ミンク TASCHENより)