
『約一時間片目を近づけて(ガラスの裏面から)見ること』
作品を写真でしか見ることができないので(残念ながら)想像するしかない。
(ガラスの裏面から)とはどういうことだろう、二枚のガラスのあいだに取り付けられているものに表裏はあるのだろうか。
立体かとおもえば平面(一見、三角錐だけど、その線がつながらず、平面に帰してしまう)である。
真ん中の円は水平線と斜線により、つまり遠近法により遠方にあるように見えるが、手前の角柱の先に乗っているようでもあり、至近に見える。
角柱の下部に見える放射線状の地平は先の水平線と平面の一致を見ない。
角柱の中途にある横棒は角柱に接続しているか否かは断定できず左端が固定されているか否かも不明である。
その横棒の右端の円(球体とも)は落下を余儀なくされる位置にあるが左上のやはり落下直前の円(球体)と、あたかも糸でつながっているように見え、引力に等しい張力が働いているかのように見える。しかし繋がっているか否かは確定できない。
そして角柱と言っているその物も四角柱か三角柱かも分からないが、その先端は錘のごとくの点であり、平衡をを保つ緊張感を有しているかに見える。
要するにどこにも確定がないのである。二枚のガラスに取り付けられた景色は、あらゆる物理的条件を外し、歪みを含有している。にもかかわらず、平面として納まっている。
不動な景色が、大きく空間を動かして揺れている妙である。ひび割れたガラスは秘かにそれを象徴しているのかもしれない。
(写真は『マルセルデュシャン』㈱美術出版社より)