
『罠』
(木と金属でできたコートかけを床に釘づけにしたもの)という説明。
ほんらい床にあるべきでないものを床に設置する。「ここでは不都合である」と、移動を試みても動かない。
使用すべき価値を失った現場に釘づけにされ、本来の場所へ戻る術を奪われている。
意味の剥奪である。
本来の目的を見いだせないまま床面に放置された物体は、単に障害物でしかない。
考えられた物が、物自体に変化はないのに、考えられないものに変移する。
正しくここにある物は、人の思考を迷路に誘う『罠』が仕掛けられている。
この物の用途を知りえた人の目には、状況は奇異に映るばかりである。有効となる(しかるべき位置)に置くべきであるという心理に基づき(動かそう)という気になるかもしれないが、意図(企み)をもって釘づけされたこの物は不動である。
ここには絶対という無理・困惑があり、絶望…望みなしの状況である。
プラスの手段を持つ物が、場所を違えることでマイナスの条件を付加される。この実態はイメージを喚起させず、心理的負担を重くするのみである。
(なぜだ、なぜここにある?)という疑問は鑑賞者をマイナスのスパイラルに陥れるのではないか。即ち『罠』である。
(写真は『マルセルデュシャン』㈱美術出版社より)