『泉』
 これは陶製の小便器とのこと。
 壁に立てかけられ設置すべきものを倒して床に置いている。

 泉というのは地下から自然に水が湧き出る所である。
 人間の生理としての小便、それを吸い込む所である小便器。全く反対の作用である。
 不浄とされる小便器を、美しい光景である泉とするこの作品。

 『泉』と名付けられた衝撃は計り知れないものがある。
「なんで、どうして?」という反問。

 これこそが、ズバリ現代美術の幕開けだったのかもしれない。天地もひっくり返る大事件である。
 正しく積み上げられたデータの集積を一気に崩壊させる強すぎる告発。
 常識の全否定は、むしろ世界をありありと見せてくれる仕掛けである。
 (制作は1916-17、100年も前の作品に大きなショックを覚え、酔いしれている)


(写真は『マルセルデュシャン』㈱美術出版より)