
『つき刺された持続』
タイトルから推して深い悲しみを感じる。つき刺さったまま永遠に消えない傷痕の空漠。誰にも介入を許さない秘密の時空である。
まさに時間と空間の亀裂のような非現実的なエリアとしての室内。
時刻を示す時計の両側には火の灯っていない燭台があり、それらは背後の鏡に等しく投影されているが、他には何も映っていない。室内を配して室内の景が映らないというのは奇妙というより、この室内が幻想であることを表している。
暖炉の壁からは煙を吐く汽車が突出しており、進行方向は鏡に見る虚空、幻想界である。
虚空/異次元は、現世(生)とは裏腹にある時空であり(死)を暗示しているのかもしれない。
克明に刻み描かれた床板の年輪は、空しく過ぎていく時間の経過を刻み込んでいるような気がする。
マグリットにとっての神聖な秘密、それは、離れゆくものとの永訣のときである。
《忘れない、永遠に!》
マグリットの哀しみが床板の木目に静かに沈着している。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)