『一夜の博物館』
 四つ(十字)に仕切られた箱状の中には、腐ったリンゴ(果実)・人為的(ハサミで任意の形状を切り取った平板で中を覆っている個所・黒く不明な形状の置物・そして切り取られた左手が、各収められている。
 これらが表しているものは何だろう。博物館というのは《過去》の事象を扱い、提示・研究する機関であれば、少なくともここに未来はない。
 未来から見た現代かもしれない。
 未来人たちは儚くも表出したこれらの事象の因果関係を考える。

 腐ったリンゴ(果実)は、生命の実(『創世記」より)と称されるものかもしれない。切断された左手は(もしあなたの右の手が罪を犯させるなら、それを切って捨てなさい/『マタイによる福音書より』の暗喩かもしれない。
 下段(右)の不定形な穴の開いた平板は人為的な工作であり、傷痕とも美ともとれる謎を秘めた板状である。折り重ねて切り抜かれているということは圧力・服従・承認など複合的な意味合いを有している。その板状が隠ぺいする空間(闇)とは何だろう。不平・不満・抑圧・憎悪・・・孕む真意は未来永劫、言葉にできない混濁の民意かもしれない。
 下段(左)の黒い不明な物は何を意味し、象徴しているのだろうか。思考やイメージを拒否する沈黙の静けさがある。

 《生命・罪・隠蔽された歴史・沈黙》これらは過去の地球が残した遺物であり、収集した記憶の欠片である。
 超未来人たちは幻のような手掛かりに首をひねるのではないか。
 わたしたちが長いと感じている人類の歴史など、『一夜の博物館』のようなものに過ぎないかもしれない。

 
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)