『出現』
 出現とは、無かったものが現れることである。
 暗緑色の混沌・深い闇・重さを感じされる流動の刹那、その中に極めて平面的に描かれた赤・緑・白の各ひし形模様に縁どられた楕円(ゼロ)と、開口部を持ったような8を思わせる形がある。

 何が出現したというのだろう。
 曖昧模糊とした模索の中から生まれた《ゼロ》の概念だろうか。
 《8》に関しては永遠を暗示しているような気もする。それが開口部を持って暗澹の闇に溶け出している。
 縁どられた中は黒(無)である。

 無窮の空間から、何かが出現する。超微細なものかもしれない・・・白は光であり、赤や緑は光彩の分解色である。

 正でもなく負でもない、何もない《無》からの出現。存在の始まりとはどのようなものだったのだろう。
 出現の神秘は人類の探求の課題でもある。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)