すぐに忘れる、怖いほどにすぐに忘れてしまう。
 今、何かをしようとしていたけれど、何をしようとしていたのか思い出せない。まったく《今少し前》に考えていたことが記憶の中からすっぽり抜け落ちている。

 まずいな・・・こういうの認知の始まりではないか。

 自分に出した指令が、従おうとしてその指令が消失していることに気付く。たった今、今少し前・・・。

 意気消沈してぼんやり考える。(何だったのか)ダメだ…どうしても出てこない。こんな風にいろいろ忘れていくのだろうか。なのに思い出したくないような過去の出来事が予告もなしに脳裏を走る。

 わたしの記憶装置はどうなっているのだろう。
 今日為すべきことを明日に延ばす、そうしてそれらは積み重なって為すべきことは永遠に忘れ去られることもある・・・かもしれない。

 怖いけれど、わたしの中の葛藤は他人に見えないので忠告されることも叱責されることもない。

 けれどよく考えてみると、今に始まったことじゃないことに気付く。
「先生が今お話ししたでしょう、それを思い出せばいいんです」と、教師。
(…ええっ、何をお話してくれたんだっけ、思い出せないよ)と、小学生のわたし。


 ずっと昔から、今に始まったことじゃないのかもしれない。