
ほっと心が和む一枚。
マグリット曰く「この絵は男の一部を隠しています」
一部…肉体の一部ではなく精神の一部、男の純情という意味だと思う。男の憧れ、恋情、男にない世界。
男と女、本能としての性に対する渇望。
肉体の中にたぎる想い、他でもない世界を二分する女性への憧憬、誰もが抱く生命の火である。
山高帽・黒のコート…着衣は社会の中の一員としての地位、安定を示唆している。しかし、男の前の石造りのフェンスは、ある種の社会的規定、越えようとすれば越えられるかもしれない拘束めいた基準を暗示しているように思う。その向こうには緑の林、彼の見つめる先は平和である。
緑濃い自然の安息を凝視しながら胸に抱く女性への憧れ、《すべての根源はここに在る、ここに隠している》という風でもある。
いろいろ思索に耽る日常に、離れがたく棲みついている女性への恋慕、生きる希望であり生命の糧を、わたしは秘かに抱いている。
消えることのない愛、消すことの出来ない愛、愛情こそがわたしを動かす活力源に他ならない。
内なる女性はわたしの希望によって造られるのではなく、すでに存在している。
この思い描く内なる女性との差異は、この石造りのフェンスのようなもの。足を一歩踏み込めば、そこにあるような幻想を抱くが、本当の平和がずっと向こうに在るように、近づけば遠のくという距離にあるのではないか。だから、わたしは常に背後に抱いているのである。
マグリットの心情吐露を、わたしは正面から聞いた気がする。
(写真は国立新美術館『マグリット展』図録より)