いつだったかラジオから、♪どこかに故郷の香りを乗ーせて~♪ という曲を聞き、不覚にも涙ぐんでしまったことがある。

 その上野駅で先日アートテラーさんのツアーでの待ち合わせがあった。方向音痴のわたし、どこがどこやら分からないけれど、さすがに<上野駅公園前の信号を渡った所>は即了解。
 三十分ほど余裕があったので樹木の囲みの淵に腰掛け、コンビニで購入したサンドイッチで昼食。
 若い母子もやっぱり隣り合わせに昼食。小さな男の子、お母さんとの楽しい語らい。満面の笑顔で話しかけていた。しばらくして立ち去っていったけど、美術館あるいは博物館へと向かったと思われる。
 もうずいぶん昔、神奈川県立近代美術館/水沢勉館長に市民講座でお世話になったことがある。そのとき「子供ころ、母に連れられて美術館に通ったことが原点です」という風なことを話されていたことを思い出した。あの母子、あの小さな男の子もいつか母に連れられて通ったことが原点になるような仕事に就くことがあるかもしれない、などと思いながら後姿を見送った。

 次に隣りに来たのは同年輩と思われる婦人の二人連れ。男の人が来て「やあ、やあ、久しぶり」なんて元気よく挨拶。見ると次第にその輪が広がって、見る間に十人くらいの集団に膨れ上がった。と、思う間もなく増えて行く・・・。
 男の人にそれとなく「同窓会ですか」と尋ねると、「そうです、出身は秋田です」と言った。
 飛び交う会話に訛りは微塵もない。
「ああ、先生、お元気でしたか」「ハイ、元気です」と、老紳士。

 上野駅公園前は、すでに《訛り懐かし》ではなく、標準語飛び交う憩いの待ち合わせ場所になっていた。

 で、アートテラーさんは?
(いました!ちゃんとおりました!)ああ、良かった。ほっと一安心、人頼り、人任せのわたしは一番の田舎者でした。