Kさんのご主人が倒れてから約半年、リハビリを経て無事退院された。続いてリハビリは必要なものの、毎日散歩を敢行している様子。Kさんは安堵しつつも、介護ベットやそのほか諸の設えの準備に奔走。

「大変ですね」と声を掛けたら、
「まったく、お父さんに言ってやったわ『契約違反だって』・・・そうしたらね、『済まないなぁ』って」と、笑った。

 まったく未来の事は誰にも分からない。
「ぼくがあなたを一生守りますから」とか何とか・・・心地よく甘い言葉。その契約、死ぬまで守って欲しいと思うのが女の情。
 若いころの喧嘩、いざこざ・・・今思えば他愛のない凸凹。でもこれからは、どんな大きな局面が待っているか分からない。
 ご主人は一家の長としてKさんにも命令口調だったらしいだけに「済まないなぁ」って言葉は身に沁みる。
 
 それぞれの家庭に、それぞれ暗黙の約束があったに違いないけれど、みんな忘れて霧消している。忘れている振りをしているだけかもしれない。時は静かに過ぎていく、事の是非を問う間もなく。


 ごく自然に、成り行きに身を任せる。どんなことがあっても・・・。
《自分は試されているのだ》という天の導きにわたしは耳を傾ける。