このような陶然たる気持にひたっておれるのは、まったく馭者の態度のおかげだった。馭者は、Kが橇のなかにいることを知っているはずなのに、早くしろとも言わず、コニャックをよこせとさえ要求しないのだ。

 陶然(忘れっぽさ)/Vergesslichkeit→Verganglichkeit/移ろいやすい、儚い、無常の。
 橇/Schlitten→Schrift/文字、書いた物。
 コニャック/Kognak→Kognat/血族。

☆このような無常感にひたっていられるのは、会堂番のせい(抑制)だった。
 彼は文字(書いた物=書物)で知っているはずなのに、来世では中止することもなく、血族に決闘を申し込もうともしないのだ。