猛暑日が続くと、秋風が恋しく待ち遠しいものになる。秋風の寂しさは身に沁みているのに・・・。

 猛烈な暑さは人を狂気に陥れる。何が何だか分からないけれど耐え難い暑さは、それ以上の熱情で克服しなければならないとまで思い詰める。若さゆえの思いあがり・・・そして迎える秋はむしろ慟哭に通じる欠落感があった。


 けれど日々を客観的に受け止めてみれば笑止、《酷暑は単に辛いだけ》という当たり前の感想に落着く。九月の涼風は美しく透明な感触をもっている。朝夕のちょっとした出会いは胸が騒ぐほどであり、カタンと音を立てて、ひと夏の終わりを告げていく。


 強烈より安穏がいい・・・小さな平和がわたしのなかでは静かな海になる。

 季節が通り過ぎていく寂しさは、わたしを死の領域へと押しやるけれど、先刻承知の事実には怯えたりもしない。それでいいとすべてに肯定的になる優しさが、秋風の中には隠れている。

《その秋風を待っている!》