90才のKさんが「頂き物だけど」と言って甘栗を持ってきてくれた。
「いいのに・・・こっちが何かしなくちゃいけないのに」と言うと、
「いいんだよ、あんたにはいつも親切にしてもらって」と言ってくれた。

 Kさんは、この地で所帯を持ったけど戦争から帰った夫はその疲労から身体を壊し、まもなく亡くなってしまった。その後は、脱穀だの人の家の下働きなどで生計をやりくりし、息子さんを育てて今日に至っている。
 とにかくよく働き、今も丈夫で、動くことを少しも厭わない。
 そのKさんが、某家の庭に毎年たわわに実る金柑がそのまま朽ちていくのを見て「来年はぜひわたしに下さいな」と頼んだらしい。
 その約束に出かけてみると、
「今は、来客中だから」とすげない返事、一度は戻されてしまった。

 出直しし、翌日行ってみると、金柑はすっかり刈り取られていたので、唖然としたけど・・・まあ仕方ないので何食わぬ顔でお茶を頂いて帰ってきたのだと言う。

(ああ、あの家ね)わたしも知っている。

 Kさんは、そこまで話すと、「何のことだかねぇ」と笑った。
「それでさ、この甘栗を二袋もらってきたんだけどさ、あんた一つ貰ってよ」と手渡してくれたのである。

 Kさんと、あの家の奥さんは同じ年頃である。古くからの付き合いに違いないけど、Kさんはあちらとは雲泥の差があると思えるほど元気。

《意地悪をされたんじゃないよ、焼餅を妬かれたのよ》
 わたしはただ曖昧に笑うしかなかった。
 年をとった時の、気持ちの整理・・・みんなあなたが教えてくれているかもしれない。