有用な雪かきシャベルが目の前にあってもそれを使用すべき人の腕が折れていては関係は成立しない。
 折れた腕の前にある雪かきシャベルは何故か折れた腕を持つ人間より優位に見える。

 物と人の関係性を問う。
 人が製作したものはすべて人間の側が優位であり優越の立場にあり物(レディ・メイド)に対する横柄な気持ちが少なからずある。しかし、折れた腕の前で(雪かきシャベル)の方が優位ではないか。
 完全と思われる物の前で不完全な者は劣勢の立場に陥る。

 人間が製作した物(レディ・メイド)の前で人間の弱点が暴露されるという景である。
 人間は人間の製作した物に対しつねに優越感を抱いているのではないか。叡智を誇る、いわば勝利であり敗北は皆無であると信じている。強い信念は崩れることがない。

 しかし、とデュシャンは考える。折れた腕の前にある雪かきシャベルと対等で有り得るか、否である。
 知恵による製作物が人間(折れた腕)の前で勝ち誇る景を想像したことがあるか、と。
 些事が暗示する大きな景は想像をはるかに凌駕する日の警告にも見える。原爆に然り、AIに於いても未来は計り知れない。
 《物》との競合、『折れた腕の前に』は人間の創り出した物との関係性をを静かに語っている。

 写真は『DUCHAMP』TASCHENよりジャニス・ミンク