この小さな作品(11.4×22×16㎝)の内包し醸す空気は(静かなる叫び)である。
 どう見てもつまらない取るに足らない作品の風情は率直に言ってガラクタにしか見えない。しかしDuchampとサインした瞬間大いなる意思が生まれる、胸につかえた激情・・・告発である。

 よく見るまでもなく角砂糖型の大理石152個は並べて同じ顔、風袋である。平等、普遍、観念の集結、イカの甲だけが大きくはみ出している。
 この空間(小さな鳥かご)この世界から半身が抜け出している、否、押し出されている。無機質なものに有機的な心情を垣間見るこの光景は図られた景色である。

 同じでない、異形だということの意味は何だろう。ありのままに見えるこの景色に内在する悲しみは単に主観かも知れない。ひとりよがりの独り言は沈黙のまま、しかし大きく声を上げている。
「ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?」
 生理現象は自然である。この自然を押し殺して内在するローズ・セラヴィは小さな鳥かご(世界)の中で異形の脅威として影を潜めている。

 『わたし(デュシャン/♂)の中の(ローズ・セラヴィ/♀)よ、何故くしゃみをしない?』大きな憤怒として、作家が差し出した静かなる沈黙の景である。

 写真は『DUCHAMP』TASCHENより