『ザムザ氏の散歩』

 カフカの『変身』を想起するザムザ氏という名前。

 主人公はザムザであるがグレーゴルであり、父母妹グレーゴル四人はすべてザムザである。一家をめぐる《逡巡》が基盤である物語。

 一匹の巨大な虫に変身したザムザ(グレーゴル)、アーチのようにふくらんだ腹、幾本かの筋、たくさんのひどく細い足・・・口から流れ出る褐色の液体。
 彼を見たものは「ひゃー」と叫びあとずさりせざるを得ない風袋、父親の投げた林檎、妹が運んでくれる食事、気絶する母親、総てが日常とは隔絶した悪夢のような時空の展開。
 平らに干乾びたグレーゴルの死体。
 一家は新しい未来の夢に立ち向かっていく。
 変身、変容、希望と絶望そして望むべき明日・・・出口はあるか。閉じているのに総ては開かれている非現実な時空の展開、まさに不条理そのものを描こうとしたのである。

『ザムザ氏の散歩』この閉じた円筒(円形)は現し得て妙、リアルを全否定した、しかし厳然と在る形は鑑賞者に強い視線を浴びせる慟哭がある。

 写真は日経『現代陶芸の開拓者たち・十選』より