汁の椀はなさずおほき嚏なる(中原道夫)

 汁の椀を離す一瞬の余裕さえない切迫の嚏。
 嚏と椀をもつ手、均衡、平静を大きく崩す予期せぬ衝動。身体から放出される揺れ、振動、危機。 結果は・・・。


 泣きしあとわが白息の豊かなる(橋本多佳子)

 何の涙だったろう、後悔、悔し涙、別れ、喜悦かもしれない。
 落ち着いてみると酷寒、息の白さは目を見張るほどである。涙も息もわたしから出る水の態。
 生きていることの実感にわたしくを再認識する、わたしの息は白く豊かではないか・・・無念よりこれから先を。


 結び目の解けぬかなしさ悴める(馬場移公子)

 紐の結び目か、否、人間関係の複雑さ、愛する人への未練・・・どうにも整理、決着がつかない。断ち切るという乱暴な処置も無くはない。心情の複雑な結び目からの解放、迷いある苦悩。
 ひどく自分がやつれ衰えてしまったような憔悴に傷ついている。