遺言を一行書きぬ冬の浜(櫂 美知子)

 遺言を一行書きぬ・・・死を覚悟、でも一行書いたところで涙があふれ止まらなかった。冬の荒涼とした浜には人影もない、誰に諫められることもないし誰も助けてはくれない。孤独を自分に問う。波音がわたくしに詰問する冬の浜である。


 霜柱倒れつつあり幽かなり(松本たかし)

 霜柱が立つ酷寒、やがて陽が射し・・・。変容する僅かな時間の流れが心をとらえる。風景に隠れた幽かな変移。心を捉える些細な現象、凝視する時空に囁きを見る。


 戦没の友のみ若し霜柱(三橋敏雄)

 若くして命を落とした戦友の無念、未来を担うはずだった若いエネルギーの消散。地の底に埋もれた悲しみが酷寒の地表に顔を出すのではないか。
 大地の底には怨念の霊がさざめいている、この哀しみは地を押し上げる霜柱の透過に交る。