鶏毮るるべく冬川に出でにけり(飯田龍太)

 戦後は家庭で鶏を飼い、その卵を食し、後には絞めて食肉にすることが少なくなかった。
 ただ家族(妻や子供たち)に配慮し、秘密裏にそれを行う。鶏は腐りやすいので冬の寒い時期、人のいない場所である冬川に出かけ毮った後に首を斬り血を流す工程に川を選ばざるを得なかったのであり、重い足取り決意が垣間見える句である。


 余呉人に月の出おそき氷柱かな(大峯あきら)

 余呉湖の鏡のような湖面に映る月。
 鏡花水月、見えるけれど、手に取ることが出来ない月の美珠。夢幻、儚い美しさに嘆息する。
 月の出おそき・・・月が真上に来るには時間がかかる。果てしなく遠い月が湖面に落とす直立の空間は幻想の氷柱ではないか。
 漆黒の宙に月の幻想で作られた氷柱は現実の氷柱との対比を思うまでもなく、スケールの超大な夢幻、ひたすら驚嘆するものである。