霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び(加藤楸邨)

 霜夜、気温が低くよく晴れた風のない夜の空気はひっそりしている。しかしどこかで激震が走るような秘密が暴き出され、寒さに泣く子は遥か遠い世界を垣間見る。
 時空を超えるこの刹那、子は父母の密着度を打ち破り、妖しい夢想に脅え泣く。本当の胎から、基、不可視の本当の父母を呼ぶのではないか。


 霜夜来て何考ふる煙草の輪(森 澄雄)

 しんしんと静まり返った霜夜、家族は眠りに落ち何の気配もなく深閑としている。
 霜夜に到ったのではない、向こうから霜夜はやって来たのだ。抵抗する術もなく迎えた霜夜。わたくしはこの空気に煙草の煙を輪にして対話する、滑稽なまでの限りなく無に近い抵抗(悪戯)である。


 冬深し柱の中の濤の音(長谷川 櫂)

 いよいよ迫り来た冬の中。
 柱は心を支えるべき深層の要である。垂直に立つ柱に聞こえるのは水平であるべき海の波濤。
 酷寒に硬くする身体、厳しさに立ち向かう大志は秘めて黙しているが、心の中は大きく広がる世界を有している。