大寒の埃の如く人死ぬる(高浜虚子)

 寒さも極まる大寒、この極みの時空に吹けば飛ぶような軽さで地(現世)から舞い上がり消えてしまう人がいる。
 夢幻だろうか、現実の重みを埃(微塵)に運ぶ異次元の幻術、凍るような硬直した空気の中で施行されたことを悟るのみである。


 短日のしばらく墓を日向にす(長谷川双魚)

 短日の陽の差し方は奇妙に低く立ち並ぶ墓の隙までをも直線的に照らす、強い光である。時の刻みに合致して照り輝く墓は選ばれたかのように毅然と輝く。
 胸を刺激するひと時の温かい擦過、墓に眠る人の微笑みが見えたかもしれない。


 ふゆの夜や針うしなうて恐ろしき(梅 室)

 冬の夜、かじかむ手で落とした不意の失態。針の鋭利を思うと放置できない。
 探すことに緊張し、針が襲うかもしれないという妄想が走る、何があっても探し出さなければならないという切迫の胸騒ぎ。
 冬の夜の安堵をたちまち暗転させる針の喪失。どこかに無言で着地しているにすぎない極小の針への膨らむ恐怖、鋭利な光の反射を見つけるまでは・・・Ah!

 冬の夜、身も心も寒く震えている。わたくしはどこへ行こうとしているのか、希望や指針を見失ってはいまいか・・・針などの些事ではない。わたくしの指針への熱い思いは今まさに恐ろしくも消え果てている、沈み込み冷え切った心がわたくしには恐ろしい。