『開いた扉』

 扉は開いている、どこまでも開いており行き来自由である。にもかかわらず閉鎖的でこの空間の中に入り込めない、何故か。
 白く見える扉のほかには何も無く、止まったままに見える時空の妙は人を誘導する招きの要素が皆無であり、沈黙が空気を圧しているからである。

 この静謐への陶酔的な偏愛。無は描けないが、存在を以って《無》を描く企みを証明している。

 扉の重厚さ、各部屋への開口は住空間を教えるが、生活の賑わいの蔭すらもないことの矛盾。
 確かに人の住まいであり、確かに人の去来はあったに違いない。その人影を消すことで過去という時間を彷彿とさせる、回顧ではあっても懐古の要素は希薄である。

 破損の廃屋ではない、居住可能な堅固さを思わせる室内は物件の公開のようでもある。この無機的な空間に陶酔する心理は、騒がしい日常からの逃避であり、個人が所有する内的空間の底の底を垣間見せるような力に惹かれるからではないか。一種の羨望が過るのを否定できない。

 写真は日経新聞『北欧絵画のメランコリー・十選』佐藤直樹より