電車内で会った老婦人は「昨日イランから帰ったところです」と言った。驚いていると「七十ヶ国以上を尋ねました、国内は沖縄から北海道まで、北海道なんかは十回は行きました」と。

「イランなんかでは人参ジュースだけを飲んで凌ぎました。分からない食べ物は怖いですから」と言い、「これから生徒さんにお土産を持っていく所です」と大きなリュックを指差した。

「何を教えていらっしゃるんですか」と聞くと「料理です」という。
「私、八十八才になりますが今年中に外国への旅行を未だ一つ予定しています」

「・・・」びっくりして声もなく彼女の話を聞いていた。健脚、健康は彼女の様子からありありと伝わるものがあったけれど話を聞かなければ普通の老婦人。
「ドバイなんか昔行ったときは貧しげでさえあったんですよ、それが何年か前には高い建物が林立していて驚きました」

 笑顔は快活そのもの、活舌もよく達者な口ぶり。
 スーパーおばあちゃん。
 もっとお話を伺いたかったけれど、残念ながら降車駅。

 市内を出たことがないわたし、つまらない小さい人生だったかもしれない。