『自然の驚異』

 夏の雲だろうか、沖ゆく船は海の波模様に同化している、まぼろしの巨船である。
 砂浜というより岩礁に佇み寄り添う二人、上半身は魚類であり下半身の足は骨ばって筋肉質に見える。
 石化の哀れ、石に姿を変えられてしまったのだろうか。いえ、『自然の驚異』であれば、為るべくしてなってしまった景色である。

 魚と人間の合体は伝説であって現実にはあり得ない。
 有りえない光景の現出、絶対不可能な質的変換、合体。あたかも普通の景色に見える驚異の自然。

 人間の脳が壊れたのか・・・観念の破壊、崩壊。億の経年において物理界に異変があるとは考えにくい。ならば精神界の変革である。
『自然の驚異』は精神界における空想の変異である。
『自然の驚異』は空想の永久の自由・権利への熱望である。

 写真は『ReneMagritte』展覧会カタログより