
『記憶』
机上には若い女性の頭部、石膏像(ギリシャ彫刻)には生血が・・・。
棘ある薔薇は活きている。
背後には馬の鈴(流言、口伝、伝説など)、水平線は暗く海と天のけじめもはっきりしない。
白い雲の手前には暗雲が大雨の前兆である。
これらが『記憶』の断片であり象徴なのだろうか。赤いバラ(愛)以外はすべてが哀しい。打ち沈んだ出口の見えない憂愁。
誰の記憶なのかは不明であるが、マグリット自身に深く刻まれた記憶に違いない。
若くして命を閉じた母、確信の愛、背後の流言。今にも大雨が地上を覆うかの暗雲。
謎である母の死への追慕。
『記憶』は作家の精神奥深く沈み離れない想いの断片ではないか。
写真は『ReneMagritte』展覧会カタログより