『蝋燭』

 この画を見ると震撼とする。ジッと見ている、と作品の中に入り込む錯覚に陥る。

 幻想ではない、明らかに存在する蝋燭の炎を描いて幻想(無)の境地に誘い込む、そういう静かだが強引とも思える力。
 ノートに挟み込んで時折見つめる高島野十郎の静謐。自分の中にある汚れの堆積が炎の中に霧消するような救いに息が止まる。

 飽くなき写実を超えた何か。質感、気配を超えた空気の重厚さ、小さな作品であるにもかかわらず、大きな世界観がある。
 作品の中で安らぐ安堵、暗いが明るく一点に集中する誘引に弛んだ感覚を叱咤されるような厳しさを認めざるを得ない作品である。


 写真は日経『声がきこえる・十選』山本聡美より