ある日を以ってA氏は消えた。
 40代、独身、不自由な足にもかかわらず部屋には杖が残されたまま、かかりつけ医に処方された薬も机の上に残して。

 三日にわたる警察の捜索、けれど跡形もなく終了。行方不明者として戸籍からも消えたかもしれない40年前の出来事。

 ホテルのコックだったA氏、わたしたちの結婚を喜び挨拶にきてくれたA氏の屈託のない笑顔が忘れられない。

 世の中にはこんな風にして消えてしまう人が本当にいるのだろうか。
 事件性…借金があったという、ヤクザがらみの事件を疑うが立証する根拠は見つからなかった。

 夫の次兄の連れ合いの弟である。
 その後の報告はない。何年か後、姉である連れ合いは急逝、弟にはもう会っただろうか。