『稲妻』

 空中の放電によって一時的に視界が閉ざされてしまう。見えているし確かに在るものが、見えないという現象に陥る。
 存在するが不在にしか見えないという現象。視覚的にも精神的にも同時に起こる有様は、事物(対象)の透き間に入り込んだような印象である。

 作品では花瓶に盛られたであろう草花がグレー一色に染まっている。色とりどりのはずがベタになる。
《在るが無い》光の攻撃による一時的な不在。
 見えているものは本当に在るのだろうか。

 衝撃! パニック! 点滅の驚異。
 あの瞬間の時空に入り込めたら、マグリットは時空の挟間で考える。存在と不在の合体、消滅する時空は異世界への通路ではないか。稲妻の衝撃はそれほどに魅惑を誘引する。

 写真は『ReneMagritte』展覧会カタログより