『禁じられた世界』

 若い女の裸身、下半身は魚であるが手にはバラ一輪を握っている。
 豪奢なソファベットの横たわる女、眠っているのか瞑想にふけっているのか…夢の中である。

 全体、海の底。眠れる海底の美女は何を思っているのだろう。嫌悪・悲壮感は微塵もなく危機的状況でもない。平和、穏やかな夢想の時間に浸る美女の脱力感。

 『禁じられた世界』、これはどういうことなのだろう。
 単に推測に過ぎないが、マグリットの亡き母への想いではないか。天空でも地獄でもない清い海底には誰もいない。静謐で密やかな誰にも邪魔をされないエリア。騒がしい天空や地獄でない幻の時空である。

 亡き母の居場所は(ここしかない)と決めたマグリットの選択が『禁じられた世界』なのだと思う。母への追慕、誰もここに立ち入ることは無い、内密の時空である。

 写真は『ReneMagritte』展覧会カタログより