某講座で隣り合わせた人は「戦争でね・・・学びなおしなの」とはにかんだ。
 彼女の持参したものは上田秋成「雨月物語」の文庫本、昭和15年発行のものだった。

 「戦争でね、女学校の時一時帰宅したその日が東京大空襲、隅田川に身一つで飛び込んだわ。火だるまの人もいて、それは凄惨な・・・」

「学びなおしなの」彼女がつぶやいた言葉が忘れられない。楚々とした高齢の美しい婦人の憂いに胸を衝かれたわたし。

 あれから二十年余の月日、学びなおしの真似事を彼女に倣っている。