若いころお年寄りは皆《のんびりしていていいなぁ》と思ったことがある。ゆっくり歩き、ゆっくりおしゃべりをする。慌てることもない日常は内職、介護、子育てに追われるわたしには羨ましくさえあった。

 ところが自身が高齢になってみると、ゆっくり歩く、ゆっくり歩くしかできないからゆっくり躓かないように歩いているのだと気づき、外に出て知人に会えば(これが最後)とばかりゆっくり懐かしんでおしゃべりに興じるという具合。
 ゆっくりとした動作の鈍さは機能の劣化、足腰を庇う呼吸から来ているのだと悟る。

 明らかに年寄りの様相であるわたし、ゆっくり歩き、途中で息を整えため息をつく。追い越していく若い人の背中を見るがすでに姿はないほどの速歩・・・。

 転ばぬよう、事故のないよう、細心の注意で過ごす毎日に駆けて飛び跳ねる明日はあるだろうか。空想好きのわたしでもそれはない。
 ゆっくり歩く、滑稽なほどに。