『旅人』

 海上に浮く球体である。
 トランク・楽器、樽(水か酒か)、袋(中はお金か食糧か)、百獣の王(ライオン)、女体トルソ、きわめて低いと思われる椅子、緑葉、新聞、イーゼル・・・等。

 多いか少ないかは問わない、これだけの荷物は普通の旅ではなく《人生の旅》である。
 しかも宙に浮いている。
 隣人、隣家、地域、集団、社会が欠落している孤独。関わりのない自由・開放。

 わたし達は常に周囲(社会)とつながっている、自然であり必要である規律と束縛。しかし、それらからの脱却を望む旅人の夢想。
 持ち物にはそれぞれ意味があるが換言すれば単に自分であることの自尊心と誇り主張などが、生きる糧と混在しているに過ぎない。
 世界の中で比較する自分の位置など無用である。ただ漂うように生きている。
 それが『旅人』であるわたくし(マグリット)である。

 写真は『ReneMagritte』展覧会カタログより