『禁じられた書物』

 唐突に床から指が突き出している、グロテスクである。指と馬の鈴で(i)とみてIrene(イレーヌ)と暗示している。禁じられた書物、読んではいけない書物(書き物)。

 イレーヌは小説家(ジャーナリスト/書く人)である。
 「わたしの作品を解説してはいけない」というマグリット、その作品をあたかも腹の底までお見通しですよと言わんばかりの批評を彼女が為したとしたら、それは辛く酷である。

 決して触れてほしくないわたし(マグリット)だけの胸裏の秘密。暴くものへの憤怒、排除不可への激しい攻撃は露わには出来ない。しかしわたし(マグリット)はイレーヌの書物を封じ込めるべく、行き止まりの壁、階段を上った先に開けるべきドアはなく封じ込められた空間を創る。
 階段の手すりはイレーヌの圧力で圧されているかに見える。それほどの影響力を持つイレーヌよ、そっと口を閉じていただきたい、そっと!
 マグリットの懇願である。

 写真は『ReneMagritte』展覧会カタログより