『野の鍵』

 ガラスを通して見る窓外の景色、その透明ガラスが破損し室内に破片が散乱している。

 かつてそのガラスを通して見えていたであろう景色がガラス片にそのまま着色固定されているという異形。奇跡ではない、物理的に絶対有りえない景色の想定である。

 絶対に有りえないが、想像、胸裏のなかではその思いも正当化される。確かに映っていたガラスへの執着、記憶の移動がある。

 物理的に不可能なことも精神界では許される(はず)。時間差でもなく空間移動でもない、あくまでも個人の感想、想念のなせる業である。不可能だが理解できる範疇の柔軟。
 鑑賞者は全否定できない心理的隙間に気づく。
 余韻、残響の可視化。記憶は現実とは一致せず個人的な執着によって新しい場面を組み立てる。
(無)であるが(有)もまた可として、脳裏(精神)の世界を垣間見せた作品である。

 写真は『Rene Magritte』展覧会カタログより