『美しい虜』

 野外でのスケッチ、画布に描かれた風景が実際の風景につながる(一致を見せる)という作品である。傍らにはやはり風景を切る樹木が立っている。

 樹木が隠した時空は当然その向こうの景色につながる。
 しかし画布が遮った光景がそのまま画布に描かれるというのは有りえず肯けない。

 にもかかわらず、(有る)と断定しているのがこの画である。現実と非現実のあいだには錯誤した眼差しがある。物を見る眼に観念が働く、こうあるべき景色だと。
 現実にそれを実行することは不可能である。人の目を通した時空のズレは絶対であり模写が現風景と同じであることはなく、画布を外せば見える景色と画布に描く眼差しに角度(時空)の調整は出来ない。

 樹木が隠すものは真実であるが画布が隠すものには疑惑がある。
《あるがまま》と《人為》に介在するものは観念であり、精神的な眼差しを物理的に置換する方法をとった作品は強要である、
 強い思い込み(虜)を美しい風景に託したマグリットの想い。観念への注意喚起、警鐘とも思える長閑な風景画である。

 写真は『Rene Magritte』展覧会カタログより