なぜ蝋燭の炎だったのか、一瞬たりとも形を留めない、にもかかわらず同じに見える。
 炎は時間である。空間との接合・交錯は凝視を許すが介入を拒む。この変化・変容、燃焼の果ての消失は万象に値する。

 蝋燭は次第に溶けていく。存在するが非存在と化していく不可逆、物理界の則に逆らう術は無い。蝋燭という人智の賜物は、現実と非現実の境界に滑り込むように炎を送る。灯りであり指針である蝋燭の炎への執心は精神を無我へと誘う。

 長い時間が必須である。炎との同化は極めて個人的な営みの結果であり、追随を許さない。
『蝋燭』は高島野十郎の祈りの息が神髄まで沁み込んだゆえのリアルに他ならない。

 写真は日経『声が聞こえる・十選』山本聡美より