
『四っに分かれた横たわる人体』(ヘンリー・ムーア)
美しく柔らかな印象を与える作品である。
ただ四つに分かれた人体などと言うものは絶対に有り得ない。その絶対を孕むことの主張が基軸である。
人体であるはずもなく、また他の何にも例えられず具体性をことごとく拒否・否定している。
『四つに分かれた横たわる人体』は横たわることの意味を完全に外し、意味そのものを霧消させている。
存在しているが、意味からは完全に解放され自由な領域を創造している。
では《無》かと問えば否、《宇宙》を包含している創意は一目瞭然である。どの角度から見ても決して何かを想起させない絶対有を構えており、形態・流れ・配置の構成は、静止(平和)と危惧(不穏・抗い)、愛(接触)と憤怒(高揚)の雰囲気的な交錯は存在の基本理念を潜在させている。
にもかかわらず、どこから見ても決定という拘束を微塵も感じさせず、むしろ大きな躍動感が鑑賞者を安堵させるという景色を醸している。危機感ある平和は沈黙のメッセージ(通告)だと感受した。
写真は日経新聞《『対話する野外彫刻』十選・西山重徳》より