『彼は語らない』

 彼は誰であるのかは不明である。
 白いデスマスク、その背後の人の性別は決めかねるが女性かもしれない。デスマスクが彼女を被うものなのかも限定できない。デスマスクは当然目を閉じているが、後方の彼女は目を見開いている。二者の間には円形の遮蔽があるが、突き刺した(連結?)パイプの意味は不明であるが白いデスマスクで止まっており、どこまで続くのかは推測不能である。

 デスマスクのほうのバックは奇想的な点描が描かれているが、この意味は何だろう。時空、時間の隔たりかもしれない。一方背後の女性のバックは板目状である。白(空白)のバックは・・・。
デスマスクと彼女の時間差は測れないが、彼女は死に至って間もなく、否、死んでさえいないのかもしれず空白は現世とのつながりを暗示するのではないか。

 中間にある円形状の遮断、円形と言えば回転を想起させるが突き刺されたパイプは中心でない以上回転は予想をはるかに超えた大きさ(無限大)の可能性を秘めている。

 唇が双方とも赤いのが気にかかる、死んでいるが生きている霊魂、沈黙のメッセージ性を鑑賞者に与えるが「彼は語らない」と否定している。
 説明的であり、説明を拒否しているとも思えるマグリットの序章、マグリットの仕事に関する前書き、扉である。

 写真は『Rene Magritte』展覧会カタログより