転居したり亡くなったりした家の片づけで出る品物を安く売る店がある。
 中でもわたしは箱のなかに無造作に入れられた着物類を見ることが好きでこの店を素通りできない。
 時代を思わせる着物は、吊るし雛やつまみ細工あるいは着衣に仕立て直すことなど考えて胸がときめく。ただ解く作業を思うと躊躇ってしまう。それでも(やっぱり)心が動くと逸る気持ちを止められない。

 帰宅すると食事もそこそこに一針一針を丁寧に解いていく。上等な着物、上等な仕立てには心からの敬意を払いつつ時間のたつのも忘れて熱中する。
 きれいに整え洗ってアイロンをかけるまでの工程、少なく見ても丸一日は費やする。それでもこの布地は貴重なものであり、処分されてはいけないものだと自分に言って聞かせる。

 古布への愛が止まらない。