
奇妙な画である。
全体暗く沈んだ色調なのに、装飾は無くシンプルな着衣である。椅子に腰かけている人物は男女の併合、髪の長い少女の両親(祖先)かもしれない。
毛髪のない双頭と髪が腰まで伸びた少女(女性)との差異は何か。〈時間〉を現わしていると思うが、霊界ではやがて現世の形態を溶解させていくのだろうか、そういう設定に思える。
少女は窓から眼下の舞台(演奏)を見ており、双頭の人物はこちら(反対)を見ている。眼下の舞台は現世かもしれず、隔絶された場所から舞台を覗き見ている光景の静けさは永遠の決裂。
舞台は明るいが、桟敷席も暗いと言うのでなく光が射していない・・・影がない。
こんなに広い桟敷席が用意されている劇場は現実にはあり得ない。桟敷席は舞台の空間よりも更に広くむしろ無限の広がりさえ認められる要素がある。この部屋の暗さ、土色は何を暗示しているのだろう。高い所にありながら地中のイメージもある。
霊界、血の連鎖、同族関係のエリアである。
あの世では未だ現世に執着を持った霊魂が現世を覗き見ている、見ていて欲しいというマグリットの願望であるかもしれない。地中(室内の彩色)であり海(水を思わせる床面)であり、空(着衣の白や空色)をもしのぐ果てない無限の空間を一枚の絵の中に封じ込めた同族の冥界の光景である。マグリット自身の執着かもしれない。画は空想の範囲を出ない。
写真は『Rene Magritte』展覧会カタログより