『桟敷席』

 暗く室内は土色である。波打つ床は立つことを危うくするような不安定感が潜んでいる。部屋が暗いのに天井が白いのも奇妙である。無限な拡がりを持つ空間かもしれない。

 ただ室内の人物の着衣の彩色は、明るい白及び水色であり陰鬱さは払拭されている。
 双頭の人物の着衣はスカート(女)と背広(男)であり、祖先を暗示しているのかもしれない。
 髪の長い女性は窓から下を眺めている、つまりここは高所であり窓の下の演者たちとは世界を画しているのではないか。向かい合わせにも窓があり、やはり人影がのぞいている。

 広すぎる桟敷席、ここはどこなのか・・・、眼下のホールには観客席もあるようだけれど、この二つの空間は現実であるのか、精神界での結びつき、心理的な時空であることは間違いないように思う。

 言葉にならない過去の幻影を手前に置き、ずっと下の沈み込んだ位置に奏者(現実)を配置している。構成はマグリットは、《霊界》の側からの眼差しで世界を見ている、奇妙な霊感の澱む構図である。

 写真は『Rene Magritte』展覧会カタログより