彼女の背後にある球体はむしろこの作品の中心(要)である。
 〈絶対〉でありながら常に危機に晒されている。一陣の風で転げ落ちることは間違いないが、静止画面の特質であれば決して落下移動することはない。危惧を抱かせることで時間・空間を巧みに引き出し、静止画像であるにもかかわらず、永遠の時を刻むかの予兆を醸し出している。

『水浴の女』のタイトルであるが、ここは水の中なのだろうか。
 見えない水、つまり《異空間》だという暗示である。現実の否定、非現実は冥府、霊界(精神界)である。ならばこの女は、永遠の女となった亡母かもしれない。マグリットの秘密、決定的な魂の拠り所たる深淵である。

 写真は『Rene Magritte』展覧会カタログより