『秘められたる音』
 (修正レディ・メイドネ:ネジ留めされ真鍮板で挟まれた紐の玉)

『秘められたる音』であるという前提である。音を閉じ込めるという考えに肯くが、「しかし」という反感がわく。
 音は物体の振動が空気を振動させて伝える波である。静止状態の対象物の中に音を発生させる何らかの装置でもあれば別だが、外部を見てそんな徴候は見当たらない。

 ならば、決して音は発生せず(秘められたる)という形容は虚偽になる。ただ心理的に《存在する》と言明されれば疑う根拠は薄らいでしまう。
『秘められたる音』は存在するのだという精神論に傾く心理。決定の根拠はないが雰囲気で曖昧なまま誘導される言葉の術がある。

 真実、疑惑、実証、結末の輪廻が鑑賞者の判断を揺するが、物理的根拠を装った精神界の問題提起である。

 写真は『DUCHAMP』TASCHENより