何の役にも立たない代物である。生産性や機能性の欠如した置物の価値の虚無。
 危うさを孕んだ曲芸的ともいえるバランスは人に緊張感を与えるが、それ以上の鑑賞は望めない。ある意味一瞬の美である、永遠からは遠く刹那的でさえある作品は技巧を凝らし(螺子で)固定してあるので損壊の恐れはないが、損壊の恐れがあるように意図して作られた作品である。

 力を加えればバランスを崩すことは必至、しかしその機(からくり)に因り、倒壊を免れている作品をデュシャンは(車輪を)回して楽しんだという。反逆、企みの裏の製作者はほくそ笑んでその車輪を愛おしんで回したに違いない。

 車輪を回すことに因る機能は皆無であり徒労である。その操作を自虐的に愉しむかの行為はデュシャンの精神に呼応し、色濃い哀愁を鳴り響かせたのではないか。

 写真は『DUCHAMP』TASCHENより