
『自転車の車輪』
白い椅子のうえに黒い車輪が乗っている。黒と白、倒壊を予想される危うい景色である。しかし、接合の定点の確実性により安定は保たれている。
もちろん持続に約束はなく、少しの力、作用で倒壊は免れない状況を孕んでいることは確かである。作品は何らかの仕掛け(接合部分の固定)があるに違いないが、そういう景色を醸すように提示されている。
例えば自転車の車輪を他の力によって動かそうとすれば、倒れることは必至である。そういう危うい設定《危機を孕んだ静止》という構想の具現化である。
黒白の決着とでもいうような危機感の内在、少しでも他力の作用を受ければ倒壊する。
一時の安穏は時の流れの挟間における奇跡を捉えている。『自転車の車輪』の静謐は呼吸を止めて凝視すべき恐怖でもある。
写真は『DUCHAMP』TASCHENより