1-1-10 泳ぐ犬

 方形に切った木材から顔を出した犬・・・。
 ほんらい液体であるべき水を木材という固体で現わし、犬を鉄で工作している。泳ぐ犬と言わなければ壁面から顔を出した犬としか認識できない。

『泳ぐ犬』、この作品を見た時の緊張感は何だったのか。犬は地上でなければ自由になれない、つまり不自由な状態であり、目的(安定した地)に行きつくために全知全能を駆使しなければならないという緊迫を負っている。
 呼吸が救いである。空気(自由)と水中(不自由)の挟間で戦っているとさえいえる状況である。時間(持続)は不明であり、地表が遠ければ死をも覚悟の泳ぎになる。

 泳ぐと歩くの相違は明確である。
 必死に目的(地上)へと向かう生命維持の本能、生きることへの静かなる表明である。

 写真は若林奮『飛葉と振動』展。図録より