実体とは何か、生命とはという問いである。
 存在を非存在に置き換えるとき、存在を彷彿とさせる力が生じる。と同時に「本物ではなく非存在である」という確信を抱く。

 実体、平素見慣れた他人を見るとき、虚像が浮かぶことはなく単にありのままの人物像である。
 しかし、虚像にふれるとき、実態を想起する、強いられるというより直感的に結びつけ、《差異》を感じざるを得ない。つまり、実態を錯視する瞬間が擦過し、この人体(虚像)に対峙しながら自分の肉体に実感を持つのではないか。

 青く塗られた人体は自分という存在とは無関係であるが、人体というフォルムを共有する対象物に畏怖の念を抱く。話しかけられることも攻撃されることもないのだから、距離はつねに自分の側が有利である関係だと思い込む。
 この関係性は絶対的に人体を否定した《青》という彩色によって鑑賞者から大きく突き放される。 
 青に対する観念的なデータは水であり空であり、地球である。青の主張する世界は人体が壁より前へ突き出たポーズによって鑑賞者を脅迫する、静かなる脅迫である。

 写真は日経新聞 2022.10.22より