ホテルのロビー、やって来たのは古老の紳士。腰かけている左の婦人は彼を見ているが、彼は無関心でやや疲労の色が垣間見える。右端には本を読んでくつろいでいる女性、熟読というより眺めている、退屈しのぎの呈である。
 三人は偶然ここで居合わせた可能性が高い。待っている風でも会談する気配も感じられない、極めて空気が固い、無風状態である。

 この三人を配置した意図は何だろう、偶然は画家にとっての必然である。
 何の関わり合いもない三人。行き交う人も亦旅人也・・・という無常観。

 ホテルには目的があって来館する。しかし、その目的はそれぞれであり、袖擦りあうほどの縁もゆかりも感じられない瞬時の交錯、その一瞬の景を画家は描き留めた。瞬時の無関係は永遠の関係性の一端である証明、儚く消える日常への恋慕である。

 写真は『HOPPER』画集より