外界を遮る壁(界)にガラス窓(通風孔)があり、日差しが落ちている。中空を舞う塵埃は新しく発生したというより太古の昔から存在していたのではと思われる粒子である。
 永遠不滅の原子、元素。結びつき溶解し漂流する見えぬものの乱舞は光によってしか見えない。

 この見えないものの正体を塵埃と呼ぼうか、塵埃が隠すものの正体といった方が適切かもしれない。凝視の先に在るもの世界の始まり。極小であり巨大である得体のしれない卑しくも尊大でもないただ在るがままの世界を示すもの。

 古色漂う窓や戸の壁面には時の刻みがあり、ガラス窓から漏れる光のなかには太古からの時間が潜在している。始まりの深さは沈黙の神秘である。
 見えないものの正体への執着は祈りであり信奉である。

『ストランゲーゼ30番地』 地球の一点に位置し、ここに生きる奇跡を静かに描き留めた画家の息づかいに大いなる畏敬の念を抱く。

 写真は日経新聞 2022.9.20